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メディカル・ニュース

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2011年03月号 「コンプライアンスにおける問題 ~突き詰めれば人の品質~」

はじめに

 「赤信号みんなで渡れば怖くない」はツービート時代の北野たけしの毒ガス標語として有名ですが、実に日本人受けする アイロニーを漂わせており、誰もが一度はこの言葉を口にしたことがあるのではないでしょうか。
こうした経緯は知らなくとも、今ではブラック「格言」のスタンダードとして定着しているようです。世の中は、グローバル化やIT化が進み、情報開示やコンプライアンスも益々重視されるなか、何故、こうした逆説的な言葉が今なお愛されるのか何となく解るような気がします。コンプライアンスには、“法律を守る”ことだけでなく、“医療機関における倫理や社会通念を守る”ことも含まれ、歴史や時代の変化に左右されず、また教条主義的な理解にとどまることなく、しっかりと信義と現実を見極めた運用が求められます。
「赤信号は渡ってはいけない」というルールを知っていて渡ろうとする「責任分散の悪知恵」「確信犯」的なもの?みんなで渡るとリスク回避ができる?交通違反の責任が曖昧になる?車がびっくりして止まる?さらに「赤信号」をいろいろな言葉に置換えると意外な方向に想像が膨らみます。個人的には大好きなフレーズではあります。いずれにしても事細かに法律が整備されている国であるからこそ受けるジョークといえます。普段から交通ルールを守らないとか、個人情報保護法さえ無い国が世界にはまだまだ多く存在しています。 

 

医療機関におけるコンプライアンスと監査機能

 昨年の診療報酬改定は2つの重要事項と4つの視点が掲げられ、久々のプラス改定ということで医療業界はもとより多方面から注目を浴びたのは記憶に新しいところです。この4つの視点のひとつに、「患者からみて分かりやすく納得でき、安心・安全で、生活の質にも配慮した医療を実現する視点」があります。本誌においても前回は「安心して受診できる病院の評価について」をテーマに取り上げたところですが、残念ながら実際の医療現場には、こうした視点とは程遠い現実も数多くみられます。現在、医療機関の設立や施設基準、診療活動などが、医療法や健康保険法に基づき適正に運用されているかをチェックする手段として、病院立ち入り調査(医療監視)や個別指導(医療監査)が行われているところです。

 

医療機関におけるコンプライアンスと監査機能

 去る2月21日、厚生労働省医政局指導課より平成21年度の立ち入り調査結果が公表されました。
全国の8645施設を対象に立入検査が行われ、約10%の施設が医師不足と報告されています。特に北海道・東北では22.2%、次が北陸・甲信越、次いで四国が全国平均を上回る医師不足数値を示しています。看護師数に関しては全国平均で充足施設数が99.2%と、医師ほどの深刻さはありませんが、関東が98.4%と全国平均を下回っています。医師不足については、医療機関の努力だけでは解決が困難な問題です。しかしながら、立ち入り検査で指摘された事項のうち、管理職員の健康 管理(第一位)や管理医療機器の保守点検実施(第三位)、その他の医薬品の管理(第四位)、調理器具の清潔保守管理(第七位)等、医療機関の取組次第で十分改善可能なものもかなりあります。

 

医療法第25条に基づく立入検査結果 適合率ワースト10(厚生労働省医政局指導課 平成21年度)

順位 小項目 適合率

1

職員の健康管理

89.5

2

医師数

90.0

3

医療機器の保守点検実施

93.1

4

その他の医薬品の管理

93.9

5

薬剤師数

94.4

5

医薬品安全使用の手順書

94.4

7

調理器具の清潔保守管理

94.8

8

医療法許可の変更

95.1

9

診療の諸記録整理保管

95.4

10

事故報告等の方策

95.8

※引用:厚生労働省HP

 

 一方、匿名のため信頼性の担保ができない情報ですが、もっと深刻な問題が隠されている書き込みがインターネットの 投稿サイトに見られます。

【投稿内容-例】

○勤めて間もない病院ですが、医療監査が近づいているようで、どこの病院でもそうでしょうが色々と上部の人たちは対策に追われているみたいです。
○手書きのカルテなのですが、昨夜の夜勤帯の記録がすべて鉛筆で記載されていて、不思議に思って聞いてみると、夜勤の回数の調節で、本当は鉛筆書きしたAさんが夜勤していたが、別のBさんが夜勤していたことにして、Bが出勤時にBの字で鉛筆書きをそのままボールペンで清書してもらうためってことでした。
○自分がやってもいないインシデントの書類を書かされたりして、元々退職する気でいた職場ですが、正直責任の所在も適当なこんなことをしている職場で自分が働いていることにつくづく怖くなってしまいました。
○以前に働いていた病院で看護部長室に用事があって訪室したら看護部長と事務長がタイムカードの改ざんをしていました。私が辞めた2年後位に労働基準監督署から指導が入り超過勤務料が払わされたようです。
○医療ミスも、自己申告しなければほぼわからないような職場です。今までに点滴の人の間違いなど発見したことがありますが、指摘しても「あらあら・・」と軽いノリでした・・・。慣れないうちに辞めようと思います。

 

 これらが事実であれば、極めて深刻な問題であり、コンプライアンスが危機的状況にある医療機関も相当数あるという ことです。ただ中には3カ月ルール(基本診療料などの基準で一時的に看護師数が施設基準を満たせない場合でも3カ月の間に改善されれば取り下げ届けの必要がない)の期間内に改善が手当出来なかった事情等もありますが、診療報酬基準の差額を自主返納するなど、当然フェアな取り組みが求められます。
また、あるアンケート調査によれば、医師の半数以上が療養担当規則の処方ルールを知らないという報告もあります。 それによれば「保険医療機関及び保険医療養担当規則」の処方せん記載ルールについて、そもそも記載ルールの存在すら知らないという実態が明らかにされています。論外な話ですが、教育の仕組みが無いなどの実情もその背景にあるよう です。特に事務方には、「医師資格である診療行為の裁量に介入するのでは」といった誤解もあり、指摘し難いという側面もあるようですが、保険診療報酬上の取り決めなので、当然に周知すべきことといえます。

 

監査者における問題

 そんな中で、昨年の9月にさらにショッキングな事件がありました。特別医療指導監査官であった元厚生労働省課長補佐(50)のコンタクトレンズ診療所への指導・監査を巡る収賄事件で、先日、実刑判決が出されました。コンタクトレンズ販売業「シンワメディカル」(大阪市)のコンタクトレンズ診療所に対し、指導や監査を免れる術について助言し、見返りに同社から現金を受け取ったというものです。元課長補佐は監査官を4年以上務め、保険医療機関や保険医に対する行政処分を決める会議にも出席していました(2010年9月26日 読売新聞より)。ショックを受けた厚生労働省では保険医療機関等に対する指導・監査実態の検証及び再発防止に関する検討チームの設置をするなどの対策を講じています。
趣旨等は次のとおりとなっています。


1.趣旨
保険医療機関等に対する指導・監査の公正な実施を担保するため、捜査の進展を見極めながら、今回の事件の検証と再発防止策の検討を行う。
2.具体的な検討事項
(1)本省と地方厚生局との役割分担及び情報共有のあり方
(2)指導・監査の対象とする保険医療機関等の選定方法
(3)指導・監査の内部監察体制 等
3.検討体制
次の体制による検討チームを設置する。庶務は保険局の協力を得た上で大臣官房人事課が行う。
(主  査) 藤村副大臣
(副主査) 岡本政務官
(メンバー) 二川総括審議官蒲原人事課長、中山地方課参事官(地方厚生局管理室長併任)、外口保険局長、
      唐澤保険局審議官、鈴木保険局医療課長
* 上記による省内の検討を踏まえて、外部有識者も参画した形での検討体制を別途立ち上げることとする


取締る側にも当然ながら公正さが求められますが、この事件では改めてコンプライアンスの難しさが浮彫りとなり、 さまざまな提言がなされるものの、現実には思うようにいかないようです。一方、医師不足、看護師不足が指摘されるなか、確かに施設基準に合致した人材確保が困難な地域もあり、責任ばかりを問うのは如何なものかといった意見にも一定の理解ができります。しかし、看護職員の離職理由に「不正が許せない」という事由が相当数ある点は重く受け止める必要があります。医師、看護師の離職理由は報酬などの待遇面だけでなく、生きがい、働きがいも大きく影響します。
特に昨年の診療報酬改定に挙げられた4つの視点のうち「患者からみて分かりやすく納得でき、安心・安全で、生活の質にも配慮した医療を実現する視点」については、改めて誰のための何のための視点であるかを肝に命ずる必要があります。 冒頭の「赤信号をみんなで渡ればこわくない」論ですが、突詰めればコンプライアンス問題も、運用する人の品質や責任が問われるのではないでしょうか。経営の根幹は、結局のところは「人」。みんなで渡ろうが一人で渡ろうが信号が赤ならば、どちらも交通違反に違いありません。信号無視の最悪の結末は、みんな一緒に車に轢かれてしまうということです。  

 

MIFコンサルタント 浅田 年愛