優秀な人材の確保は、医療機関においても永遠の課題である。優秀な人材は、単に業務の遂行に長けているだけでなく、人間関係の構築力や、さらには倫理性も軽視してはならない。拙速な人材確保が、とんでもない事態をもたらすリスクもしっかりと認識しておく必要がある。
ケース:院内の窃盗行為
東京都内A皮膚科クリニックは、1日の外来者数が約100名を超えるクリニックである。院長のほか、看護師、受付職、各2名のスタッフで、多忙に運営を行っている状況であった。ある日、看護師Aから結婚退職の申し出により、急遽、求人媒体を活用した新規採用を開始することに。しかし応募状況は芳しくなく、他方、Aの退職日が近づいていたため、じっくり選考をする間もなく、「とりあえず」応募者から1名を選定し、確保した。何とか引き継ぎができる期限ギリギリで採用が決まり、安堵したものであった。
事件はこの時に採用した職員Bが勤務し始めてから約2ヶ月後に起きた。非常勤医師から、「財布から現金がなくなっている」との申し出があったのだ。申し出を受けた法人本部職員も、こうした事件は初めての経験であったため、まずは全職員に「各自のロッカーは施錠するように」と通達した。しかしロッカーへの施錠は浸透せず、間もなく別の医師から同様の申し出を受けた。内部犯行の疑念もあったが、証拠は一切ない状況。そこで家電販売店にて小型のカメラを購入し、設置することに。数日後、またしても同様の犯行が起きたため、録画を確認すると、はっきりとBの映像が残っており、Bの仕業であったことが判明した。ただちにBとの話し合いを持ち、本人も認めた上で、即時解雇となった。
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今回の事件における根本的な問題は、「人柄を見抜けない」採用活動にあった。一般的にクリニックは計画採用、随時採用を行うことは稀で、欠員補充を目的とした採用が多い。急を要した欠員補充は時間的制限があるため、人柄を見落としがちである。しかし、今回の事例を、「一定止む無し」と捉えるのではなく、対策を講じた上で採用活動に取り組む必要がある。
【対策】
1.十分な採用期間の確保
職員の退職までの期間が短い場合は、短期間で採用活動を終わらせる必要が生じ、じっくりと時間をかけて選考することが難しくなる。まずは、こうした事態を回避するため、院内における退職時の規程を、補充職員の採用を含め時間的に余裕があるものにしておく必要がある。即ち、自己都合で退職を申し出る場合は、退職日の何日前までという規定を厳格なものとし十分な採用期間の確保を規定上担保しておくことが重要である。また、単に規定を作るのではなく、十分に院内周知を図る取り組みが必要となることにも留意したい。
2.人物像把握に有効なひと手間
規程を作成したとしても、やむを得ぬ事情等により急な退職者が出るというイレギュラーケースが生じることは一定やむを得ない。こうした場合はタイトな採用期間内に、いかに迅速に人柄を見抜くかという必要に迫られる。人物像を見抜く方法として、前職照会が挙げられる。今回のケースのように入職後間もない時点で大胆にもこうした事件を引き起こす人物は、過去においても同様のトラブルを起こして来たケースが多いことは否めない。前職照会というひと手間をかけることで、こうしたリスクが大きく圧縮出来るならば、安いものである。


